NO FUTURE FOR FUTURE

NO FUTURE,FOR FUTURE.メンタルや身体が不調でも、ほんの少しだけ明るくなれるようなことたち

【格闘技】16年服役した57歳・ボクシング2階級世界王者が、52歳・元UFC王者に勝利「もう一度”王者”になりたい」

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ナン(左)は出所してすぐに、ミレティッチ(右)との試合を決めた
(ナンのインスタグラム boxernunn63 より)

 7月18日(土・現地時間)アメリカ・アイオア州ダベンポートで格闘技イベント『Clash of Legends』が開催された。

 IBF世界ミドル級・WBA世界スーパーミドル級の二階級制覇を達成したマイケル・ナン(57=アメリカ)と、元UFC世界ウェルター級王者で、2014年にUFC殿堂入りを果たしたパット・ミレティッチ(52=アメリカ)が対決した。
 ルールは「両者の間を取った」と主催者が言う”キックボクシングルール”だ。

 新型コロナウイルスの影響からか会場は屋外で、客席は2席ほどの間を取りながら行われた。主催者発表では3500人以上の観客数があったと言う。

 試合は両者の現役当時の階級より3キロほど重いおよそ79kg契約で行われ、4R制で行われた(※分数は不明)。

 ナンはサウスポー、ミレティッチはオーソドックスに構える。
 1Rからナンはボクサーらしく中に踏み込むステップを多用し、腹、顔と打ち分ける。ミレティッチはガードを高く上げ、様子見か。

 3R、ミレティッチがインローをナンの前足に放つと、ナンは一気にバランスを崩しこける。ロープ際に追い込まれるミレティッチが、意を決したようにパンチコンビネーションで前に出ると、ナンは落ちついてバックステップ、打ち合いはしない。パンチ勝負ではやはりナンに分があるか。

 しかし前に出るミレティッチが、右ロー、右ミドルと蹴りを放つとナンはモロにもらい、すぐにバランスを崩す。キックへの対応はあまり出来ていないようだ。

 後半になるにつれミレティッチはスタミナが落ちてゆき、少ない攻撃数がさらに少なくなってゆく。最後までナンはレティッチの蹴りに臆することなく、時折蹴りをもらいながらも、果敢にパンチ中心に攻めていった。

 ジャッジは一人が39-37でミレティッチにつけたが、他2人は40-36、39-37でナン。ナンは自身19年ぶりの試合で、2−1で判定勝利した。

 ナンは試合後のインタビューで「これが彼(ミレティッチ)の故郷での最後の試合になると思っていたので、ベストな状態で臨まないといけないと思った」と語った。ナンとミレティッチは、同じダベンポート出身だ。

 確かにミレティッチにとっては、これが”最後の試合”となったのかもしれない。
 しかしナンは続けた。「ヘビー級チャンピオンと戦わせたいなら、呼んでくれ。家に帰って彼らのビデオを見て、数日後にはジムに戻るよ」と次の試合を望むと語った。

◆地元紙のカメラマンが撮った試合写真

 ナンは、88年にIBF世界ミドル級王座を獲得。92年にはWBA世界スーパーミドル級王座を獲得し、二階級制覇を達成した。さらに98年、WBC世界ライトヘビー級王座に挑戦するも、三階級制覇には失敗。02年の敗戦を最後に引退した。

 しかし引退から半年後、コカインの使用密売の容疑で逮捕される。所持量が大量だったことや、現役時代の約10年前から薬物取引に関わっていたこと、さらに引退後すぐに薬物カルテルの構成員となっていたことから判決は重く、04年に麻薬密売罪で懲役約24年の刑を宣告された。

 その後約16年間、薬物依存症の治療を受けながら服役する。数年前に薬物犯罪に関する法律が改定されたため、ナンの刑は短縮。19年末に刑期を終えた。

 ナンは地元紙のインタビューに「孫たちはYouTube以外で、私の戦いを見たことがない。彼らに努力の価値を知ってもらいたい。おじいちゃんがした間違いを繰り返さないでほしい。私の犯した犯罪をカッコイイことと思ってほしくないんだ」と努力の素晴らしさと、自身の轍を踏まないでほしいと語る。

 獄中にいた2017年に、ナンの母親が亡くなった。ナンは「彼女が私が世界王者になれると教えてくれた。彼女のことは私の心に重くのしかかっている。母や家族や子どもたち、そしてコミュニティのために戦いたかった」と試合前に語っている。

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2人の現役時代の写真が使われた大会のポスター

 ミレティッチにとって、ナンはダベンポートの偉大な先輩だった。31年前の91年、ナンが地元凱旋で六度目の防衛戦を行った時、プロデビュー前の23歳のミレティッチは観客席で固唾を飲んでいた。

 ミレティッチは試合前に「マイケルを殴りたいわけでもないし、殴られたいわけでもない。けれどコミュニティにとって良いものになると思う。新型コロナウイルスで疲れきった人々に、平常心を取り戻させる手伝いになるかもしれない」と、市民たちの休息にうってつけだとして試合に臨んだ。

 試合後にミレティッチは「ナンは恐ろしくスピードがあり、美しいジャブを持っている」と、ナンのボクシングスキルがいまだ失われていないと称えた。

 ナンは「19年間リングに上がっていなかったのに、本当に良い気分で動けた」と満足そうに語る。
 服役時、太り過ぎで栄養について知識のない受刑者たちに、正しい食事の取り方(ナンがいた薬物刑務所の食事はバイキング形式だったと思われる)や、運動によるトレーニングを指導していたというナン。刑務所内でも節制し、トレーニングを続けていたナンがミレティッチよりもスタミナがあり、動けたこともうなずけるかもしれない。

 さらにナンは、同世代の元ボクサーで、ミドル級からヘビー級の四階級を制覇したロイ・ジョーンズ・ジュニア(51)と連絡を取り、対戦することも視野に入れていると言う。

 ナンは「我々が50代になった今、彼は戦いたいと言っているんだ。30代の頃、彼は俺と戦いたがらなかった。俺は彼を倒せると信じてマッチメイクを待ち続けていたけど、彼が戦うことはなかった。だが20年後に倒すだけだ」と、かつて同階級で対戦が望まれていいたジョーンズと戦いたいと言う。

 先日ジョーンズは、マイク・タイソンとの”エキシビションマッチ”を行うことに合意した。ナンと戦うことはあるのだろうか。

 ナンは「私はもう57歳だし、永遠に戦い続けることは出来ない。だけど、もう一回チャンピオンになりたいんだ。私はいつも、3度目の世界チャンピオンになりたいと思っていたんだ」と語っている。

<了>

◆地元テレビのニュースになった、二大レジェンドの試合の様子

ツイッターに投稿されていた試合の動画