NO FUTURE FOR FUTURE

NO FUTURE,FOR FUTURE.メンタルや身体が不調でも、ほんの少しだけ明るくなれるようなことたち

【当事者起業】「出来ない新人に、やる気がないと思っていた」ウツを患ったマネジメントのプロが、交流カフェを開店  東京・篠崎『ごちゃまぜCAFEメム』

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おしゃれな外観のメムと、店主の和泉さん

 今年6月、東京・篠崎にカフェバー『ごちゃまぜCAFEメム』がオープンした。店主は長年ウツ症状とともに暮らしている、元会社員の和泉さん。公式サイトのトップページには「マイノリティと非マイノリティが相互理解し合えるサードプレイス」と掲げられている。

 駅から8分ほど歩いた、住宅地兼商店街の落ち着いた立地にある。外観や店内は、ウッドテイストで統一されたお洒落な雰囲気だ。カウンターが7,8席(調整可能)と、4人が座れるテーブル席が2つ。ブログ筆者が訪れたのは休日の午後で、すでに6名ほどのお客さんがいて、次第に増えていった。 

 その日は夜から「マイノリティと仕事」というテーマの、お客さんによるイベントデーだった。土日や平日夜を中心に、お客さんが主催の様々なテーマのイベントが行われている。

自信があったマネジメント。つまづく新人に「やる気がないのか」と思っていた

 北海道から上京した和泉さんは、憧れていた某大手サービス系企業へ入社。10年間ほど、マネジメント業を中心に活躍した。そこで現場スタッフの新人教育を担当した時期があったという。

「1日目は基本を、2日目は応用、3日目から現場デビュー」という流れで育ててゆく。「だいたいの人はマニュアルどおりで育つんです。だけど中には1日目はオッケーでも、2日目の応用でつまづく人がいる。自分は絶対的な自信があって。ほとんどの人はそれで育つんだから、こっちに間違いはないと」。和泉さんにはベテランとしての自負があった。

「そっち側の問題だろうと思うわけです。『やる気がないのか』と思っていたし、厳しい言葉を投げることもありました」と振り返る。

 しかし「何年か後に”発達障害”という概念をはじめて知りました。もしかしたら…と思ったわけです。自分がダメダメの烙印を押した人たちって、その人自身のやる気の問題ではなかったのではないか…」と、彼らが障害を持つ可能性に思い当たったという。

 発達障害には様々な分類や症状があるが、たとえば暗黙のルールが理解できなかったり、集中することが苦手だったり、逆に集中し過ぎてしまう、物事の優先順位を把握することが苦手…など通常の社会生活を営む上で、そのままだとハンディとなる特性が多いとされている。

「無知だったとはいえ、すごく罪悪感を持ちました。後悔ですよね。人としてはやってはいけない、言ってはいけないことを言ってきた可能性があるのではないか…」。和泉さんの在籍した企業は”○○社流・人の育て方”的な書籍なども出ている業界の大手。「中の人間も”そのやり方でやって育たない人は彼らに問題がある”という常識に浸かっているわけです」


「スタッフを障害者扱いするな。力不足の言い訳にするな」

 その後、和泉さんはシフトを選べない多忙さや、人間関係で疲労しその企業を退職。同じマネジメント職で違う仕事についた。
 その会社でも入社してくる新人スタッフの何人かには「この子はもしかしたら…」と、発達障害特性を持っているかもしれない人はいたと言う。

 「たとえば出来ないことや失敗が多い人で、そのままでは他の職員やスタッフと同じ仕事を任せることは出来ない。私も少し(発達障害のことを)勉強してきて、見れば見るほど”特性だな”思うんです。けど他の人がやっていることを、その人はやらなくていいよっていうと『なんでその人だけ特別扱いするんだ』という声が出ますよね。そのジレンマに悩んでいました」

 一人で抱え込んでしまった和泉さんは、ある時意を決して会社に「○○さんは発達障害の疑いがあります」と報告した。しかし返ってきた言葉は「あなたはマネジメント失格だ。スタッフを障害者扱いして」というものだった。

「自分の力不足を、スタッフを障害者に仕立ることですり替えたということになったんですね。衝撃でした」。今から3,4年ほど前のことだったという。「世の中ってまだまだなんだな、と思いました」

 その後、さらに転職したがマネジメント経験の豊富な和泉さんは、どの企業でも「会社と人とを橋渡しする」マネジメント職ばかりだった。

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和泉さんと店内の様子

「組織に所属するのは難しい」


「企業や組織を離れて、社会に貢献するようなことがしたいという思いが強くなってきました」と、会社勤めに限界を感じるように。

 当時和泉さんは「発達障害のことを知りたい」と、都内のイベントバーなどで当事者が主催していた”発達障害バー”等にも何度も通っていた。それでも「身近にいるけれど、自分とはかけ離れたもの」だという思いがあったという。
 しかし1年ほど前に、突然身近に感じるようになった。

 和泉さんはもともと「何年かごとに波が来てウツになって」とウツ症状があった。「母親とうまくいってなかった。ずっと母のいうことが理解できないまま大きくなっていったんです」という和泉さん。「自分の親だから愛そう愛そうと思っていたんですが、ある時『ダメだな』と思いました。なんでこんなに愛せないんだろう、母親の言うことがわからないんだろうと思った時に『母親も(発達障害の)当事者だ』と。たぶんASD自閉症スペクトラムアスペルガー症候群)だと思う。以外に身近だった」

 発達障害は遺伝傾向があると知っていたので、自分も診断、検査を受けると「ADHD傾向がある」という結果が出た。「まったく無縁だったと思ってた人間がほぼ当事者だったわけです。そういう人はまだまだいるだろうなと思いました」という。

「(障害などの問題から)無縁だと思っている人にほど、発達障害に限らずマイノリティのことを知ってほしい」そんな思いが「マイノリティと非マイノリティの交流スペースを作りたい」という、店のコンセプトになった。
 カフェバーにしたのは、自分のサービス業経験が生かせるからという。

 今年4月にクラウドファウンディングを行い、目標金額を達成。趣旨に賛同したボランティアたちの力も借り、6月に開店した。

「とりあえず店は開いた、という第一段階中。発達障害などの人以外にも、来てもらえるようなアイデアを模索中」と言う和泉さん。”当事者のたまり場”だけではない場所にしたいという。来店してみたり、ツイッターなどでアイデアや、協働できることを提案してみると良いかもしれない。


取材・撮影 遠藤一 (@endohajime) | Twitter

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『ごちゃまぜCAFEメム』
東京都江戸川区上篠崎2丁目15−4
ランチ  11:00~ ディナー 18:00~23:00 (状況により変動有)
木曜定休

 ■ごちゃまぜCAFEメム - gochamaze-mem ページ!

【公式】ごちゃまぜCafeメム (@gochamaze_mem) | Twitter