【格闘技】43歳元うつ病のキックボクシング王者・松崎公則が防衛戦 病気から学んだ「ラクに考え、力まない」戦い方
10月20日(土)に開催されるキックボクシングイベント『J-KICK 2018~4th~』(J-NETWORK主催/東京・後楽園ホール)で、かつてうつ病を患っていた43歳のチャンピオンが初防衛戦を行う。
松崎公則(STRUGGLE)、現J-NETWORKスーパーフライ級王者。現在3連勝中で、直近の2試合はKO勝利している。じわじわと相手のスタミナを奪い、自分のペースに持ち込みヒジとヒザでねばり強く攻めるサウスポーだ。彼は10年前、部屋にこもりきりの「うつ病患者」だった。
28歳の時、会社員をしていた松崎は以前からの夢だった国際協力事業に転職。カンボジアでの職業支援に従事した。しかし日本と現地団体との折衝に悩み、1年で退職。帰国して半年ほど「部屋でほとんど動けなかった」という。
「自分の能力的にうまくできなかった。国際協力の仕事をずっと目指していたんですが、落ち込んじゃったんです」と言う松崎。数カ月はベッドとパソコンの間を往復するくらいだったが、だんだん動けるようになってきたという。
「最初は山とか温泉とかに出かけて、出来るところから」身体を動かしはじめた。以前やっていたキックボクシングをまたやってみようと思い、現在所属のジム「STRUGGLE」に入会した。30歳だった。
STRUGGLE会長の鈴木秀明氏は「入会してきた時は鬱病の最中で、挙動も怪しかった」と当時を思い出す。続けて「運動神経も下のほう。けれどいつも同じ時間に来てきちんとメニューをこなしている」と言う。
松崎も「入会して2年くらい、アマチュアの頃は抗鬱剤など飲みながらやっていました。良くはなっていたんですけど、不安定で」と振り返る。
鈴木会長によると「アマチュアの頃は負けまくっていた」というが、プロデビューして3年で「WPMF(世界プロムエタイ連盟)」の日本スーパーフライ級王座を戴冠。
39歳の2015年には「REBELS-MUAYTHAI」フライ級王座を獲得。翌年16年、41歳の時には同団体の一階級上、スーパーフライ級王者にもなり、二階級制覇した。現在まで四冠を経験している。
鈴木会長は「年齢も年齢だし、弱い部分は多かったけれど自分で考えて、工夫してうまくなった」と評する。鬱病になる人は真面目な人が多い。その真面目さに苦しめられたこともあれば、強みに変わることもあるのだろうか。
「つらいことが来た時は、逃げちゃう。」
四冠王の肩書を持つ松崎だが、練習中以外は肩の力が抜け穏やかな雰囲気をまとっている。「今でも鬱になることは、たまにはある。元々の性格っていうのも直せないし」と笑う。「でも対処法がわかるようになった。ラクに考え、つらいことが来た時は、逃げちゃう。気分が乗らない時は練習もやめといて、走るだけにしたりしています」と、自分の中の”憂鬱”と付き合いながら選手生活を続ける。
ブログのタイトルも「憂鬱なキックボクサー」だ。「以前は元うつ病というのを出したくない、恥ずかしいというのがありました。でも(外に)出したほうがラクになる。隠していると逆にぎくしゃくしちゃうし」と、とくに隠さず周りには”カミングアウト”している。
現在はジムのトレーナーをしながら、個人での整体業を開く準備中だという。
今回の防衛戦の相手は、18歳でWMC(世界ムエタイ評議会)日本スーパーフライ級王座を7月に獲得したばかりの大崎孔稀。幼い頃からアマチュアで活躍してきた「格闘技エリート」だ。
松崎は大崎の印象を「最近の選手は子どもの頃からやっていて、スピードがとても速い。相手の試合ビデオを観て研究していますが、スキを見つけて自分の距離にいかに持ち込むか」と入念に研究している。「この年になると、力んじゃうとすぐ疲れちゃう。力が入っちゃうとどうしてもテクニックが出せない。相手も見えなくなってしまう」と力まずテクニックで勝負すると語った。
鬱の人に「がんばりすぎない」というのは常識だが、がんばりすぎないことと、あきらめないことはイコールではないのかもしれない。脱力しながらも、自分の戦いを貫く43歳の王者は、20日リングに向かう。
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